【日本VOC測定協会・技術シリーズ1】 2009.7.6

シックハウスと室内換気

はじめに

 シックハウス対策は、平成15年7月からのシックハウス新法の施行以来(国土交通省)、材料、接着剤、塗料等の建築材料と、室内換気との両面から行なわれています。私共の最近の新築住宅におけるVOCに関する調査(調査件数約200棟)では、トルエン及びアセトアルデヒド以外のVOCの濃度は、厚生労働省の指針値を大部分がクリアしています。中でも機械による室内換気は、シックハウス対策に極めて大きな役割を果たしており、特に室内のVOCの濃度が指針値をオーバーする様な事があっても、その低減化は、現在のところ、換気を主体とした方策が最も有効な方策であることが、理解されつつあります。
 今回、シックハウス新法の施行前と、施行後に調査した新築住宅に対するVOC濃度の測定・分析結果に準拠し、『シックハウスと室内換気』と題して、まとめてみました。その中で特に、『シックハウス新法と換気回数』の問題に言及し、室内のVOC濃度と絡めた『省エネに立脚した換気回数』の提言を行なってみました。お読みになった中には、ご意見のある方もいるとは思いますが、大部分の方は理解してくれるものと思います。具体的には、今回の技術シリーズでは、次に示す事項を取り扱っています。

 (1)VOCの調査結果とその考察
 (2)指針値をオーバーした場合のVOCの対策
 (3)シックハウス新法への室内換気の係わり
 (4)省エネに立脚した換気回数への一提言
 (5)これかの換気システムに求められるもの
 

1.VOCの調査結果とその考察

 図1にVOCの調査結果を示してあります。この調査結果についてまとめますと、以下に示すものとなります。 

  • ホルムアルデヒドは、シックハウス新法施行前においても、大部分が指針値(0.08ppm)以下であり、施行後ではほぼ皆無である。従ってホルムアルデヒド対策は、現状では十分確立しているものと判断できる。
  • 接着剤、並びに塗料等に含まれるトルエンの指針値のオーバーは、シックハウス新法の施行前の49.2%に比べて、施行後は20.7%とかなり減少はしているが、それでも他のVOCに比べ、指針値オーバーの件数が多い。 
  • ホルムアルデヒドと同じ目的で使用されるアセトアルデヒドの指針値オーバーは、シックハウス新法施行前の40.9%から、施行後では52.8%と逆に増えている。このことから、アセトアルデヒドに対しては、法的な規制が無い為に、ホルムアルデヒドの代替品として、その使用量がシックハウス新法施行後に増加しているものと推察される。今後ホルムアルデヒドと同様に、アセトアルデヒドに対する何らかの対策が必要であろう。
  • 同一メーカーの同一商品を接着剤として用いた場合、トルエンおよびアセトアルデヒドのいずれも、指針値をオーバーする場合と、しない場合とがある。これは使用量の差異によるものと判断される。接着剤等の使用量は、VOCの発散量に対して強い影響を与えることから、過大の使用に細心の注意が求められる。
  • トルエン、並びにアセトアルデヒド以外のVOCいずれも、指針値をオーバーすることは殆ど皆無である。従って今後のVOC対策は、この二物質に限定しても、さほど問題は無いと言っても過言ではない。
 

2.指針値をオーバーした場合のVOC対策

 室内VOC濃度が指針値をオーバーした場合の対策としては、建材等から自然に放散されるVOCを、換気システムを含めた強制換気によって室外へ排出する方法と、室内の温度上げ、建材等のVOCを強制的に放散させて室外へ排出させる方法との二通りの方法があります。前者を強制換気方式、後者をベークアウト法と呼ばれています。以下、この二通りの方法について具体的に説明します。

(2)-1 強制換気方式
 図2は、竣工時において、アセトアルデヒドの濃度が0.105ppmと指針値(0.03ppm)の3.5倍と極めて高かった場合における、その濃度の経時変化を示したものです。この場合、ベイクアウトは行なわず、換気回数0.5回/hを有する排気型セントラル換気システム(第3種換気システム)を常時運転させた場合でのアセトアルデヒド濃度の経時変化を示したのです。約4ヶ月程で、アセトアルデヒドは、指針値をクリアしている事が分かります。また指針値を2倍程度オーバーした場合でも、約3ヶ月程度で指針値以下となります。従って、これまでの検証から、例え室内のVOC濃度が指針値をオーバーしても、大部分のVOCは約半年程度で指針値以下となるものと考えて良いことになります。

(2)-2 ベイクアウト法
 図3に示すように、室内のVOCを低減させる方法として、室温を上げることにより建材等に含まれるVOCの発散を促進させる、ベイクアウト法があります。現在のところベイクアウトの期間と室温をどの程度にするかは、未だ確立していません。ただ1週間から10日間程度のベイクアウトの期間でかなり有効であることが分かってきています。またあまり室温を高くすると、内装材がはく離したり、建材が反ってしまったりすることがあります。室温を30℃~35℃程度とすることが一般的な様です。
 図4は、ごく最近での5階建ての構造鉄筋コンクリート造りの住設建材ショールームにおける、ホルムアルデヒドの測定結果を示したものです。最初の測定日である9月17日においては、ホルムアルデヒドの濃度は、0.706ppmと、指針値(0.080ppm)の約9倍と極めて高いものとなっています。その後、室温30℃とし、約一週間程度のベイクアウトを数回実施行したところ、約4ヶ月経過後でのホルムアルデヒドの濃度は、指針値を完全にクリアしている事が分かります。このようにベイクアウト法は、かなりの高濃度のホルムアルデヒドに対しても、その極めて有効な方法であることが分かります。なお図4に示すものは、ホルムアルデヒドの発散はパーテーションとした建材から行なわれていたことが、判明しています。


3.シックハウス新法への室内空気質のかかわり

 シックハウス新法における室内の換気に関しては、かなり細部に渡って条文化されています。その中で、給気口と排気口に関しても記述されています。シックハウス新法施行後、既に数年経過しているにもかかわらず、建築関係者間では、各居室等に取り付ける給気口と排気口に関しての理解がまちまちである為に、未だ混乱があることも否めないのが実情です。特に確認申請に当っては、各市町村の窓口でのこれらの取り扱いと理解に、一貫性が欠けているのも実情です。
 このような事から、シックハウス新法施行後、未だに不明瞭な各居室に設ける給気口と排気口に関して、一つの見解を以下の様に示してみました。

  • ホルムアルデヒドは、シックハウス新法施行前においても、大部分が指針値(0.08ppm)以下であり、施行後ではほぼ皆無である。従ってホルムアルデヒド対策は、現状では十分確立しているものと判断できる。
  • 接着剤、並びに塗料等に含まれるトルエンの指針値のオーバーは、シックハウス新法の施行前の49.2%に比べて、施行後は20.7%とかなり減少はしているが、それでも他のVOCに比べ、指針値オーバーの件数が多い。 
  • ホルムアルデヒドと同じ目的で使用されるアセトアルデヒドの指針値オーバーは、シックハウス新法施行前の40.9%から、施行後では52.8%と逆に増えている。このことから、アセトアルデヒドに対しては、法的な規制が無い為に、ホルムアルデヒドの代替品として、その使用量がシックハウス新法施行後に増加しているものと推察される。今後ホルムアルデヒドと同様に、アセトアルデヒドに対する何らかの対策が必要であろう。
  • 同一メーカーの同一商品を接着剤として用いた場合、トルエンおよびアセトアルデヒドのいずれも、指針値をオーバーする場合と、しない場合とがある。これは使用量の差異によるものと判断される。接着剤等の使用量は、VOCの発散量に対して強い影響を与えることから、過大の使用に細心の注意が求められる。
  • トルエン、並びにアセトアルデヒド以外のVOCいずれも、指針値をオーバーすることは殆ど皆無である。従って今後のVOC対策は、この二物質に限定しても、さほど問題は無いと言っても過言ではない。
 この様に考えますと、各居室に必ずしも給気口と排気口を取り付けなくても良く、例えば新鮮空気を取り入れる給気口が全体で1~2箇所であっても、各個室に排気口を取り付け、汚染空気を排出する流れ経路を明確にすることによって、確認申請の認可を得る事が出来るものと考えます。 要するに室内に設ける給気口と排気口によって、室内の汚染空気がスムーズに外部に排出される換気経路を明確に確立さえすれば、室内の快適な空気環境を創生する上でも問題はない。従って大切の事は、自信を持って、確認申請の窓口の担当者を含め、当該者を納得させることです。

4.省エネ対策を考慮した換気回数の一提言

   ご存知の様に、室内のVOC濃度は竣工後4~6ヵ月で大部分が放散されます。また竣工時でVOC濃度が規制値をオーバーしたとしても、4~6ヵ月でほぼ規制値をクリアするレベルまで低減化します。また冬季においては、室内外の温度差による自然換気の発生と、換気による暖房エネルギーの損失の増大が生ずることになります。これらのことを鑑み、省エネ対策を念頭にした換気回数に関して、以下に示すところの一つの提言をしたいと思います。
  • 国土交通省等が編集した『建築物のシックハウス対策マニュアル』に、建築基準法に対応した換気対策の一つとして、『冬季には躯体の隙間量に応じて、相当隙間面積が2cm2/m2以下の住宅では0.1回/h、相当隙間面積が2cm2/m2超の住宅では0.2回/hの自然換気量を見込めることから、機械換気設備の能力としては0.5回/hに相当する換気量を確保した上で、冬季において相当隙間面積が2cm2/m2以下の住宅の場合には0.4回/h、相当隙間面積が2cm2/m2超の住宅では0.3回/hに相当する機械換気量まで低減可能な風量調整スイッチを0.5回/h運転用スイッチに加えることも出来る』と明文化されている。
  • 図5は8月に竣工した住宅において、冬季間(11月~3月)の換気回数を0.35回/hとした場合のVOC濃度の測定結果の一例を示したものである。すべてのVOC濃度は指針値をすべてクリアしている。また、これまで冬季での換気回数0.35/hとした場合のVOC濃度の検証を10棟程度実施しているが、全て室内のVOC濃度は、指針値を下回っていることが立証済みである。
  • 高断熱高気密住宅では、換気回数0.5回/hとすると、冬季間での室内の換気による熱損失は、住宅全体の熱損失の30%程度を占めるとされている。したがって、換気回数を0.35回/hとすると、換気による熱損失は30%削減されることになり[註1]、住宅全体での熱損失に対して、換気による熱損失を20%程度まで下げることができることになる。現在の第1種換気の熱交換効率は50%~60%(通称熱交換効率は80%程度としているが、実質的には50%~60%程度となる)であることを考えると、住宅全体での熱損失に対しては、第1種換気での換気による熱損失は15%程度となる。例えば具体的に、札幌での40坪程度の住宅においては、冬季間での換気による熱損失は、灯油換算で第1種では170リットル、換気回数を0.35回/hとした第3種では297リットルとなり、127リットル程度の差となる[註2]。現在の灯油代金を50円/リットルとすると、第1種と第3種とにおける冬季間での換気による熱損失は、高々6,000円程度となる。両者でのイニシャルコスト、及びメンテナンスの頻度を考えると、現時点では第3種に軍配が挙がるのは、自明の理であろう。
 [註1] 換気回数を0.5回/hから0.35回/hにすると、以下に示すものとなる。
 (0.50ー0.35)/0.5=0.3=30 % 
 [註2] 以下に示す関係式に基づいて算出される。計算に当たっては、建物の大きさを132m2とし、天井高さを2.4mとした。 

◆ 換気回数を0.5回/hとした場合の熱損失量は、次式で求められる。
  熱損失量=建物の気積(m3)×換気回数(回/h)×空気の比熱(W/m3K)=132×2.4(m3)×0.5(回/h)×0.35(W/m3K)=55.4(W/K)
 
◆従って、冬季間の換気による総熱損出量は、次に示すものとなる。
総熱損出量Qs=時間×熱損失量×暖房度日数=24×55.4×2450=32,257,520(Wh)
 
◆1Wh=0.85986Kcal,発熱量=8240Kcal/リットル、灯油の燃焼効率η=0.80とすると、灯油への換算量は、次に示すものとなる。
 
灯油への換算量=[32,257,520(Wh)×0.85986(Kcal)]÷ [0.8×8240]=424.9リットル
 
従って、換気回数を0.35回/hとした第3種換気と、熱交換効率が60%の第1種換気の冬季間の換気による熱損失の灯油への換算量は、次のようになる。
 
第3種換気での熱損失量=424.9×0.7=297リットル
第1種換気での熱損失量=424.9×0.4=170リットル

  以上のことから、冬季での換気回数0.35回/hを、以下の理由によって、提言するものである。
 (1)冬季間での換気回数0.35回/hは、法規的にも許容される換気回数であり、住宅の省エネ化を図る上で重要となる。
 (2)冬季間での換気回数0.35回/hとした場合のVOCに関しては、測定データに基づいて、ほぼ問題がないことが立証されている。
 (3)冬季間での換気回数0.35回/hは、給気の冷気感と、室内の過乾燥を緩和する。
 (4)冬季間での換気回数0.35回/hとした場合の室内結露の発生は、これなでの測定データでは、皆無である。もしも結露が発生するようであれば、換気量を調整する。

 

5.これからの換気システムに求められるものは

 冬季間での換気回数を0.35回/hとする事を提案したが、その為には、換気システムとして、今後以下のものが求められるであろう。 
  • 制御と省エネの両面から、ACモータからDCモータへの移行の促進。
  • コントローラの表示に、冬季運転のマークを取り付ける。
  • ユーザに対して、必要に応じて換気量を調整するように、今後指導していく。