私からの発信〜「理事長コラム」1

アセトアルデヒドについて

1.はじめに

 本年2011年4月から、前任者の福井政義氏(網走市・光輝建設(株)会長)から、NPO法人日本VOC測定協会の理事長を引き継ぐことになりました。理事長を引き受けるに当たって、中嶋賢一事務局長さん((株)ナカジマ社長)から月1回程度の割合で、当協会のホームページを用いて、何かの発信をして頂きたいとの提案が5月の年次総会でなされました。テーマや内容は、思いつくままで結構であるとのことでしたので、引き受けることに致しました。大学を出てから40年余、工学部機械工学の教育と研究に携わり、あまりユーモアのない真面目な学研生活を送ってきた関係上、発信の内容がどうしても硬くなり、内容が面白くも、可笑しくもないものになるとは思いますが、出来る限り読み易く、印象に残るものになるように心がけて行きたいと思います。その為には、中には、当協会の内容とはあまり似つかわしく無いものも、時には発信したいと思います。
 今回の発信の内容は、最初であることから、硬く、何の面白みも無いテーマとなりますが、『最近のシックハウスの特徴』 についてです。具体的には、他のVOCに較べて、圧倒的に指針値オーバーしている「アセトアルデヒド」のに関する話題を取上げました。

2.最近のシックハウスの測定事例の特徴

 当協会が発足してから4年あまりが経過しました。その間、一般住宅を主体に、現在まで110数件の室内VOCの測定を行ってきました。測定結果の中で、最も注目されることは、アセトアルデヒドの厚生労働省が出している指針値をオーバーする割合が、全体の4割となり、極めて大きいことです。この指針値のオーバーは、ここ数年一向に改善されず、逆に増加の傾向があります。他のVOCが指針値をオーバーする事例は、大部分が数パーセント程度となっていることから判断すると、アセトアルデヒドはダントツに多いものとなっています。
 それでは以下、アセトアルデヒドの発生源,発生機構、低減化対策、指針値に関して、分かり易く解説を致します。

 

 

3.アセトアルデヒドとは

 アセトアルデヒドは、特異な刺激臭を持つ無色の液体で、ホルムアルデヒドと同様に、塗料や接着剤などに含まれており、頭痛やめまいを引き起こすシックハウス症候群の原因物質の一つであります。アセトアルデヒドは、身近なものとしては、エチルアルコール『アルコール』が酸化すると生じます。いわゆる二日酔いの原因となる物質です。工業的には、エチレンに酸素を作用させて合成し、塗料、プラスチック、合成ゴムに添加させて使用されています。

4.室内でのアセトアルデヒドの発生源について

 アセトアルデヒドは、木材から発生することが知られています。トドマツやカラマツ等の針葉樹、広葉樹のヤチダモからの放散が認められています。また最近国産建材用木材であるスギ材からの発散が確認されています。このように木材からアセトアルデヒドが発散されることから、自然素材を使用した場合は、健康住宅であると必ずしも言い切れません。
 接着剤では、酢酸ビニル樹脂溶剤系からの放散が多いことが分かっています。また水系合成塗料やエタノールが使用されている自然系塗料からもアセトアルデヒドが多量に放散されている事例があります。現在のところ、これらの接着剤や塗料には、アセトアルデヒドの成分表示はされていません。溶剤では、工業用エタノールから多く放散されることが分かってきています。
 

5.アセトアルデヒドの発生メカニズムについて

 以上述べたように、室内には多くのアセトアルデヒドの発生源があることがわかります。しかし、どのような機構で発生し、放散するのかは必ずしも明確ではありません。
 木材については、乾燥などの熱履歴がアセトアルデヒドの放散を促進するというデータもありますが、樹種による相違を説明するには至っていません。また、樹脂や塗料などの溶剤として使用されたエタノールは表面から揮発するまでの間に一部が酸化され、アセトアルデヒドとして放散すると考えられています。酢酸ビニル樹脂や塗料では、不純物としてアセトアルデヒドやエタノールが混入しているのではないかという指摘もあります。一方、酢酸ビニル樹脂そのものが分解し、アセトアルデヒドが生成するとの指摘もあります。
 このように、アセトアルデヒドそのもの自体が添付されている場合や、使用されているエタノールが酸化し、アセトアルデヒドに変化する場合も有るために、ホルムアルデヒドのように、定量化して、規制するまでには至っていません。その為に、アセトアアルデヒドの発生原因の解明と対策に関する研究が強く望まれます。
 アセトアルデヒドに関しては、建築学会では分科会等を発足させて検討された経偉がありましたが、残念ながら、ホルムアルデヒドのような具体的なものは纏まらず、ペンディングの状態です。此れは多分、アセトアルデヒドの発生が多岐に渡っている事と、発生機構があまり分かっていない事によるものと考えます。多分アセトアルデヒドに関しては、ホルムアルデヒド以外のVOCと同様に、明確な対策法は国の機関からは今後とも出されないと想定されます。
 したがって、現時点では、アセトアルデヒドそのものが含まれるものや、酸化によってアセトアルデヒドに変化する物質を含む接着剤、塗料、溶剤の使用を極力避ける対策を取らざるを得ないのが実情です。

6.アセトアルデヒドの指針値について

 国交省の住宅性能表示制度においては、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼンの5物質が測定対象物質となっており、アセトアルデヒドは入っていません。現在アセトアルデヒドは、平成15年4月から厚生労働省のVOCの指針値を出している13物質の測定対象物質の一つです。アセトアルデヒドの指針値は、日本では0.03ppm(48μg/m3)です。しかしWHO(World Health Organization"の略称。通常、「世界保健機関」と訳される)のそれは0.17ppm(300μg/m3)です。日本も最初WHOと同じく0.17ppmでしたが、その後WHOの指針値が0.03ppmであると勘違いし、0.03ppmとしました。その後、現在まで身体への影響に関しての医学的見地からの検討は全くなされておらず、WHOの1/6以下となる0.03ppmとしています。
 大学の在職時から含め、数百件のVOCの測定を行ってきましたが、アセトアルデヒドをWHOの指針値0.17ppmとすると、ほとんど指針値以下になっています。指針値を厳しくすることは、より良い空気環境を創生する上では望ましいことです。しかしながら、指針値のオーバーの事例が現在極めて多いことは、居住者の多くに強い不安感を与えています。また住宅の供給者もアセトアルデヒドに対する具体的な対策法をなかなか見出せないのが実情です。このように極めて大きな意味を持つVOCの指針値は、あくまでも医学的検証の上で、定めなければなりません。その面では、現在の日本でのアセトアルデヒドの指針値0.03ppmの決定は、医学的根拠が極めて曖昧で、言い換えればWHOの指針値の間違った解釈によるものです。
 現在アセトアルデヒドの指針値オーバーが他のVOCに比べてダントツに多いことと、WHOの指針値が0.17ppmであることを斟酌すれば、現在の指針値0.03ppmが妥当なものであるかどうかの早急の検討が強く望まれます。


 

7.アセトアルデヒドの軽減化対策について

 アセトアルデヒドは、これまでに述べたように発生源となる建材や発生機構が明確になっていない為に、製品安全データシート(MSDS)や、成分表などでアセトアルデヒドが含まない材料を用いたにも拘わらず、施工後指針値をオーバーする例が多々あります。その一つの要因は、我々が身体に取り入れたエタノール(エチルアルコール)が肝臓で酸化されてアセトアルデヒドなるように、他の物質からアセトアルデヒドに変化することです。これがアセトアルデヒドの対策を困難にしている一つの要因と考えられます。このようなことから、現時点ではアセトアルデヒドを軽減させる方策としては、以下のものが考えられます。

(1)竣工後VOCの測定を行い、指針値のオーバーの有無の検証の徹底

(2)接着剤、塗料、及び溶剤の使用の制限
 (ア)アセトアルデヒドを生成すると考えられる酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤を使用しないか、使用量を制限する。
 (イ)水系合成塗料や自然系塗料を使用しないか、使用量を制限する。
 (ウ)エタノールを使用しない。

(3)換気回数が0.5回/h以上の能力のある換気設備を設置し、当然ながら24時間換気を徹底させる。この場合機械換気システムの換気能力を最大限にして稼動させる。

(4)ベークアウトを行う。具体的には、窓を締め切り、暖房機器などで、室温を30~35℃程度まで上げ、強制的にVOCを発散させる。一週間程度でかなり低減されます。