私からの発信〜「理事長コラム」2

熱の単位の換算方法

1.はじめに

 工学に関連した熱、湿度、材料等の物性値の単位は、例えば圧力では、mb (ミリバール)、Kgf/cm2、Pa(パスカル)、mmAq(水中)、mmHg(水銀柱)、熱伝導では、Kcal/m・h・℃、W/m・K、J/m・h・℃、透湿係数では、g/m2・h・mmHg、ng/m・s・Paと、それぞれ異なる幾つかの単位で表され、いずれも未だに用いられています。そのために材料が同じであっても、単位が異なって用いられている場合は、性能を評価に当たって、単純に数値の比較が出来ず、どうしたらよいかと、戸惑ことがしばしば遭遇します。このような混乱を回避するためには、熱、湿度、材料等の物性値の持つ単位について、しっかりと理解を深めていく必要があります。
 この様な事を踏まえて、熱に関連する物性値を取り上げて、それぞれに用いられている単位の物理的解釈と、それらの相互の換算方法について、分かり易く解説を行ったものです。
 

2.物理量の単位

2.1 単位と単位系について 
 単位系には、基本単位を異にした幾つかの単位系が使用されています。単位系は、次に示す3通りものが現在、主に用いられています

(a) 国際単位系(SI単位系)
基本単位として、表1に示すものを採用しています。

名称 記号
長さ メートル
質量 キログラム kg
時間 s

表1 国際単位における基本単位
  

(b) 重力単位系(工学単位系)
基本単位として、表2に示すものを採用しています。

名称 記号
長さ メートル
重さ キログラム kgf
時間 s

表2 重力単位系における基本単位

 

(c) 絶対単位系(物理単位系)
基本単位として、表3に示すものを採用しています。

名称 記号
長さ センチメートル cm
質量 グラム g
時間 s

表3 絶対単位系における基本単位


 ここで力を例に取りますと、SI単位系では、力の単位は
1ニュートン(N)=質量1Kg×加速度m/s2
で表されます。
 工学単位系においては、力の単位は,Kgfになります。NとKgfとの間には、
1Kgf(キログラムジュウ)=質量1Kg×重力加速度9.80665m/s2
=9.80665N
の関係が成立します。

 このように基本単位の違いによって、物理量の単位がそれぞれの単位系で、全く異なることになるわけです。そのために、この単位系混在の不便さをなくする上で、国際単位系(International System of Units;通称SI)が確立され、国際的にはこの単位系が用いられてきています。しかしながら、依然として、種々の単位系が用いられている為に、一つの物理量が色々な単位を持っていることになるわけです。
 

3.熱の移動

3.1 熱の移動
 
熱の移動は、「温度の高いほうから低いほうへながれる」という基本法則があり、図1に示すように、次の3形態によって行われます。

①熱伝導
②対流熱伝達
③ふく射

図1 熱移動(伝熱)の基本3形態

  先ず熱伝導は、図2に示すように、物体内での熱移動で、高温側の分子運動が直接低温側の分子運動に伝えられ、その時物質の移動がないものを称します。金属は分子が緻密であるために、熱は良く伝わります。空気は分子密度が小さいために、分子運動の伝達が起こりにくいので熱伝導は小さくなります。


図2 熱伝導

  次に対流熱伝達は、図3に示すように、固体表面とそれに接する空気との間で生じる熱の移動であります。この固体と接する空気の動きが大きいほど伝熱量は大きくなります。熱い湯を冷ます時、息を吹き付けるのは、熱の移動量をおおきくし、早く冷ますまめです。また建物の場合は、固体表面とそれに接する空気との間に対流熱伝達が行われるが、同時に固体表面は、他の個体面との間でふく射伝熱が起こります。両者を合せて総合熱伝達といいますが、単に熱伝達という場合は両者を含んでいます。


図3 対流熱伝達
 物質分子は、絶対0度(-273.16℃=0°K)にならないかぎり、常に分子運動が行われ、物質表面から分子振動によるふく射波を放出する。このふく射波が他の物質に衝突すると熱に変換される。ふく射による伝熱で、最も身近なものは太陽からの熱移動です。その日射量は、大気圏外で太陽に対して直角の面で1,164Kcal/m2hとされます。ふく射による熱エネルギーの伝播は、内部エネルギー → 電磁波 → 内部エネルギーの過程をたどるため、その伝播に媒体を必要としない。ですから真空の宇宙空間を通して、太陽の熱エネルギーが吾々の地球に伝わってくるわけです。ふく射による熱エネルギーは、図4に示すように、高温物体の温度をT1、低温物体の温度をT2とすると、

で与えられます。

図4 ふく射伝熱

3.2 熱移動に関する用語
 現在、熱移動に関しては、表4に示すように多くの用語が用いられています。 

用語

単位1
(キロカロリー Kcal)

単位2
(ワット W)

単位3
(ジュール J)

熱流束 q [Kcal/m2・h] [W/m2 [J/m2・h] 
熱伝導率(λ) [Kcal/m・h・℃] [W/m・K]  [J/m・h・℃]
熱伝導比抵抗(1/λ) [m・h・℃/ Kcal] [m・K/W] [m・h・℃/J] 

熱伝導抵抗(R)
(熱抵抗)

[m2・h・℃/ Kcal] [m2・K/W] [m2・h・℃/J]

熱伝達率(α)
(熱伝達係数)

[Kcal/m2・h・℃] [Kcal/m2・h・℃] [J/m2・h・℃]
熱伝達抵抗
(1/α)
[m2・h・℃/ Kcal] [m2・K/ W] [m2・h・℃/ J]
熱貫流率(K) [Kcal/m2・h・℃] [W/m2・K] [J/m2・h・℃]
熱貫流抵抗
(1/K)
[m2・h・℃/ Kcal] [m2・K/ W] [m2・h・℃/ J]

表4 熱移動に関する用語の比較

 

3.3 用語の物理的解釈
(1)熱流束
 図5に示すように、熱は材料の両面における温度差(T-T)によって、材料内を移動します。これを熱流束と称します。熱流束を支配する移動方程式は、次のようになります。

熱移動方程式:q(熱流束)=-λ(∂T/∂x) 

ここで、λは熱伝導率で、材料固有の値となります。


図5 熱流束
 

(2)熱伝導率
 材料の両面の温度差によって生じる熱の移動量を表すもので、以下のように定義されます。

熱伝導率=[材料内の熱の移動量]/[材料の厚さ]・[時間]・[材料両面の温度差]
 表5に代表的な材料の熱伝導率を示してあります。
材料 熱伝導率[W/m・K]
普通合板 0.178
木材(スギ) 0.087
グラスウール 0.038
ウレタンフォーム 0.025
空気 0.024

表5 代表的な材料の熱伝導率 
[熱伝導率に関するまとめ]
①表5の熱伝導率は、材料の両面の温度差1℃ (℃とK(ケルビン)Kにおける温度差は同じとなる)の時の材料の単位厚さ1mを通過する熱量Wで、材料の断熱性能を単に表したのもある。すなわち、数値が小さい程、断熱性能が高いことになる。例えば、ウレタンフォームは、グラスウールに比べて、0.038÷0.025=1.52倍の断熱性能を有する。その結果、厚さ100mmのグラスウールと厚さ67mmのウレタンフォームの断熱性能は同じとなる。
  ②熱伝導率は、固体、液体、気体の順序で小さくなる。断熱材は微小体積の気体(空気)をたくさん形成させて、熱伝導を小さくしたものである。

 
(3)熱伝導比抵抗
[熱伝導比抵抗に関するまとめ]
 ①熱伝導比抵抗は、熱伝導率と湿気伝導率の逆数で、単位は、[m・h・℃/ Kcal]となる。
 ②値が大きくなれば、それらの移動量は少なくなる。いわゆる、断熱性能が高くなることになる。すなわち、熱の移動の抵抗が大きくなる。
  
(4)熱伝導抵抗(熱抵抗)
[熱伝導抵抗に関するまとめ] 
 ①熱伝導比抵抗に材料の厚さを掛けると、使用する材料そのものの熱抵抗を表す、いわゆる、熱伝導抵抗[m2・K/W]となる。したがって、両者においては、以下の関係式が成立する。 

材料の熱伝導比抵抗[m・K/W]×材料の厚さ[m]
= 熱抵抗[m2・K/W]

 
(5)熱伝達率と熱伝達抵抗
[熱伝達率と熱伝達抵抗に関するまとめ] 
 ①熱伝達係数ともいう。固体表面積1m2あたり、固体表面との温度差1℃につき、1時間に移動する熱量である。
 ②熱伝達率の逆数が熱伝達抵抗となり、熱伝達抵抗が大きい程、熱は伝わり難くなる。
 
(6)熱貫流率と熱貫流抵抗
[熱貫流率と熱貫流抵抗に関するまとめ]
 ①熱伝導率は材料自体の熱伝導を評価する値であるのに対して、熱貫流率(K値)は、仕様材料の断熱性能を示したものである。
 ②熱貫流率は、熱伝達率に基づいて求められます。すなわち、
 

K値(熱貫流率[W/m2・K])=1/(材料の熱抵抗値[m2・K/W])
=1/(材料の厚さ[m]÷材料の熱伝導率[W/m・K]) 
となる。またK値が小さい程、断熱性能がすぐれていることになります。

 ③熱伝導抵抗及び熱伝達抵抗が分かると、建物の壁の熱貫流率Kは、下記の式を用いることによって、評価出来ます。

K=1/[Ri+(R1+R2+R3+・ ・ ・ +Rn)+Ro]
ここで、
Ri: 室内側表面の熱伝達抵抗値 
Rn: 壁を構成する材料の熱抵抗値 
Ro: 外気側表面の熱伝達抵抗値
である。

(7)熱損失係数Q値 
 図6に示すように、室内の温度が屋外よりも高い場合、熱エネルギーは住宅の壁や屋根、床、窓、玄関などのあらゆる所から逃げていきます。これらの熱損失のトータルを延べ床面積で割った物を、熱損失係数と称します。

Q=(QR+QW+QF+QV)/(延べ床面積)

[熱損失係数Q値に関するまとめ]
 ① 熱損失係数は、Qとも称され、住宅の断熱性能を表わし、値が小さいほど住宅の性能が高いことになります。
 ② 熱損失係数の単位は、[W/m2・K]である。
 ③ 室内外の温度差1℃の時に、1時間に家全体から床面積1m2あたりに逃げ出す熱量である。


図6 建物からの熱損失

 

4.単位の換算

4.1 熱量の単位について

 熱量の単位は、表2に示すようにKcal(キロカロリー)、W(ワット)、及びJ(ジュール)があります。これら3者の間には、以下に示す関係があります。
(1)J(ジュール):仕事量を表します。重さ1N(ニュートン)ものを1m移動させた時の仕事を1Jとします。すなわち、
J(ジュール)= N(ニュートン)×m(移動距離)
の関係式が成立します。
(2)W(ワット):仕事率を表します。すなわち単位時間(1秒間)にする仕事量を表します。従ってJ(ジュール)とW(ワット)との間には、次の関係式が成立します。 
W(ワット)= J(ジュール)÷時間(s)=J/s
分かり易く言えば、100Wの電球を1時間使用すれば、
100[J/s]×3600=360000[J]の仕事をしたことになります
(3)cal(カロリー): 仕事量Jは、熱量calに変換されます。また逆に熱量calは、仕事量Jに変換されます。これが熱力学における第1法則です。ですからエンジンで発生した熱量が車を動かす仕事量になるのです。仕事量Jと熱量calとの間には、次の関係式が成立します。
1cal(カロリー)=4.18605J
1J(ジュール)=0.238888 cal
 また、W(ワット)とcal(カロリー)との間には、次の関係が成立します。  
1W=0.238888 [cal/s]
  更には、電力料金で用いられる1KWhとcal(カロリー)との間には、次の関係式が成立します。
1KWh=1000[J/s]×3600[s]×0.23888[cal]
=859968[cal]≒860Kcal

1Wh=860[cal]=0.860 [Kcal]
4.2 熱量の単位の換算
 すでに述べたように、熱量の単位としては、cal(カロリー)、W(ワット)、およびJ(ジュール)の3つが用いられています。以下熱伝導を取上げて、単位の換算の方法について説明します。

(1)[Kcal/mh℃]から[W/mK]への換算 
 ①1Kcal=1/0.860[Wh]=1.1628[Wh]
 ②1℃=1K(ケルビン) 
これらを[Kcal/mh℃]に代入すると、

[Kcal/mh℃]=1.1628×[Wh]/[mhK]=1.1628×[W/mK]

となります。
(2)[Kcal/mh℃]から[J/mh℃]への換算
1Kcal=4.18605×103Jとなることから、これを[Kcal/mh℃]に代入すると、次のようになります。

[Kcal/mh℃]=[4.18605×103J]/[mh℃]=4.18605×103[J/mh℃]

5.まとめ

 工学に関連した熱、湿度、材料等の物性値の単位の表示は、幾通りのものがある為に混乱し、理解にほど遠いものとなっています。その為には其々の単位において、お互いに如何なる関係が成立するかを良く理解しなければなりません。また熱は、空気と同じく目に見えず、その挙動は複雑です。それ故に学ぶ側にとっては、なかなか理解し難いものとなっています。会社も第1種換気の取扱いを本格的に始めました。此れを機会に是非とも熱に関して理解を深めて頂きたいと思います。